【 信じる力 】





好き好き愛してるイヅルだけ。
ずーっと一緒に居りたい。
ほんまイヅルは可愛いなァ。


上司から毎日繰り返されるそれらの言葉は甘くて痛い。
僕の気持ちを知らない貴方に罪は無いと分かっていても、心が軋む。
挨拶代わりにされるには、重すぎて。

ついに限界を感じたときには、滑る口を止められなかった。







「お止めください。僕は、…そういう悪ふざけは、きらいです」

きつく言い放ってしまった僕に、隊長はぽかんと口を開けた。
しまったと後悔しても一度発してしまった言葉は戻らない。
消えない。
なかったことにできない。

誤魔化す言葉も浮かばなくて、ただ考え無しの唇を噛む。
隊長が息を吸う気配に、脚が震えた。
何を言っているのかと、呆れられたか、哂われるか。
…怒りを買うか。

落とした視線の先で廊下の板目が滲む。
緩い涙腺が憎らしい。
こんなことで泣いたりしたら、だめなのに。

隊長のつま先気がこちらを向いたままだから、涙を溢さぬよう上を向くこともできない。


「ふざけてるんやなかったら、ええの?」
「………え?」

思いがけず静かな声に弾かれ見上げたそこには。
やさしく微笑む隊長が居て。


「本気やで。今までのも、全部。イヅルに言ってきたことは全部、本当」



「な、にを……」

仰っているのですか。
いいかげんご冗談が過ぎますよ。


そんなこと言えるわけがない。
こんな真摯な眼差しを前に。



だって そんな 信じられない。
だけど、信じたいとも、思う。
たとえ冗談でも嬉しかった日々繰り返される甘い言葉を。

それは、なにより 僕の欲しかった――-



「信じてや」

「―――-――ッ」



嗚咽が漏れたのが先か、踏み出したのが先か。
此処が廊下だということも忘れて僕は、隊長の胸に飛び込んでいた。