週末デートの別れ際、市丸は愛おし気に聡明な額へと口付けをひとつ落とした。
すっかりお馴染みとなった行為は温かく、けれど馴染みすぎて特別さが薄れたなど、一年前の自分が聞いたらなんて贅沢をと叱られるだろう。うっとり瞼を下ろし触れるだけの口付けを甘受しながら、イヅルは心の中で苦笑を滲ませていた。
再開の朝、髪を撫でられ。別れ際、口付けを贈られる。
幸せだと、思う。
だけど、これだけでは、もう。
離れ行く銀髪を見詰めながらイヅルは決意を握り締めた。
「ほな、気ィ付けて」
「…はい、―――あのっ」
「あぁ、返すんは来週また会うた時でええから、ちゃんと巻いとき」
風邪ひいたらあかんからと、襟巻きを直される。
この指が圧倒的な力で虚をなぎ払うとは、実際見たあとでも信じがたい。
それほどしなやかな指をしていると、いつも思う。
その長い指が、物腰を裏切らぬ仕草でやわり頭を撫で、髪を整えてくれる。
触れる温度が意外に高めだということをを知ったのはいつだったか。
指先も、心も。
市丸の持つすべてが、イヅルにとっては温かく優しく、―――せつない。
温かなひと。優しいひと。
初めて会ったときから、ずっと。
初めて会ったときより、もっと。
変わってしまったのは、僕の方。
我侭になったのは、僕の方。
すごく すごく 大事にされている。
どうしてそんなに?と問うたびに 答えは穏やかな抱擁で返された。時に口付けで。
「どしたん?もしかして来週はなんか用事があるとか」
また、髪を撫で付けられる。
まるで子供をあやすようだと思った。
そう思うことこそ、幼稚だと分かっているのに。
「…違い、ます」
「ん?」
優しすぎるひと。大好きなひと。
僕よりずっと、大人なひと。
きっと困らせてしまう。だけどもう、―――止められない。
「…っ、違います」
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